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東京地方裁判所 平成7年(ワ)5197号 判決

主文

一  原告と被告東京レジャー開発株式会社との間において、原告が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

二  原告と被告株式会社かんそうしんとの間において、原告が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

三  被告株式会社かんそうしんは、原告に対し、別紙会員権目録記載のゴルフ会員権証書を引き渡せ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1の事実は、各当事者間に争いがない。

2  請求原因2ないし8の各事実については、被告かんそうしんとの間では争いがない。

3  請求原因7の事実のうち、被告東京レジャー開発が、本件会員権譲渡通知を受領したことは、被告東京レジャー開発との間では争いがない。

4  原告と被告かんそうしんとの間において成立に争いがなく、被告東京レジャー開発との間で、《証拠略》によれば、訴外甲野は、平成六年七月二二日頃、被告かんそうしんから一八五万円を借り入れたこと、右借り入れを担保するため、同月二四日、被告かんそうしんとの間で、本件会員権について、譲渡担保契約を締結したこと、右同日、日付及び譲受人欄白地の本件会員権証書、名義書換承認申請書、会員脱退届並びに会員権譲渡通知書等を被告かんそうしんに交付したこと、訴外甲野が代表取締役を務める株式会社乙山が、平成六年一〇月二二日、二度目の不渡を出し倒産したため、同日、訴外甲野も支払停止状態に至ったこと、そのころ、被告かんそうしんは、訴外甲野が支払停止状態となったことを認識したこと、訴外甲野は、平成六年一一月一八日、東京地方裁判所で破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任されたこと、被告かんそうしんは、平成六年一〇月二六日、訴外甲野から交付されていた日付及び譲受人欄白地の会員権譲渡通知書に同日付で譲受人を被告かんそうしんと記入した上、同通知書を被告東京レジャーに内容証明郵便にて送達し、右通知書は同月二七日到達したことの各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  原告の否認権行使の効力について

被告かんそうしんは、破産法七四条にいう「権利の設定、移転又は変更」があった日とは、右行為が対抗要件を具備する程度に完成していなければならないものであるところ、ゴルフ会員権の譲渡担保においては、発行者の承認を停止条件とする譲渡、ないし期待権の設定に過ぎないから、担保権を実行できるようになったとき、すなわち本件では訴外甲野が支払停止状態に至ったときに譲渡担保権の設定があったといえる旨主張するので判断する。

破産法七四条の対抗要件の否認は、いわゆる原因行為を前提とするものであって、原因行為に否認の理由がない場合においても、一定の要件を満たした場合に限り、対抗要件をそなえる行為を否認の対象としているのであるから、右原因行為は、対抗要件を具備する程度に完成したものであることが必要である。

本件のごとき、いわゆる預託金制ゴルフ会員権の譲渡担保契約においては、第三債務者たるゴルフ場会社の承諾がなくとも、当事者間では、右契約時に会員権移転の効力を生じる。

そして、いわゆる預託金制ゴルフ会員権の譲渡の第三者に対する対抗要件は、指名債権譲渡の対抗要件である確定日付のある証書による通知又は債務者の承諾によると解すべきであるから、破産者から破産宣告前に右会員権を譲り受けた者が、その譲り受けを破産管財人に主張するには、債権譲渡の対抗要件である確定日付のある通知・承諾が必要である。

したがって、いわゆる預託金制ゴルフ会員権の譲渡担保についても、破産者から譲渡担保の設定を受けた者が、譲渡担保契約後一五日以内に確定日付のある通知・承諾により対抗要件を具備しなかったならば、その譲渡担保の設定を破産管財人に対抗できない。

ゴルフ会員権への譲渡担保の設定について、実際上発行者への通知がなされていない例が多いのは、担保権者が、会員権の担保権者への名義書換承諾料の支払を望まないこと、設定者のプライバシー・名誉を配慮していること等に基づくものであるから、対抗要件不具備のリスクは担保権者が負わなければならない。

以上から、ゴルフ会員権の譲渡担保契約は、単なる予約に留まり対抗要件を具備できないような場合とは異なり、右契約時に対抗要件を具備する程度に完成したものといえるので、被告の主張は採用できない。

三  結論

右の事実によれば、原告の被告かんそうしんに対する対抗要件についての否認権行使は有効であり、原告が本件会員権を有すると認められるから、原告の被告らに対する請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九三条一項、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中 治)

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